研究概要 |
当該年度においては、前年度の主要なテーマであった筋の硬直の発達と関連する代謝に関する研究の補足を行なったのち、本年度の主要テーマである単一筋線維の熱拘縮についての研究を行なった。筋の熱拘縮を誘起する閾値温度が溶媒のpH値の如何によって著しく異なることは前年度において予備的に明らかにしていたが、当該年度は特にこの点を検討するため、種々pH値,ATP濃度および温度条件下における単一筋線維の張力の発達の如何を調査した。また、同時に、アクチンおよびミオシンフィラメント構成タンパク質の状態を推定することを目的として筋張力試験と同一の条件下での処理を行なった筋線維について電気泳動法による解析を行なった。その結果、単一筋線維の熱拘縮誘起閾値温度はATP濃度とpH値に依存していることが明らかになった。すなわち、低pH領域(酸性側pH領域)では熱拘縮が起こりにくく数mMのATP共存下では体温または通常みられる発熱時の体温程度の温度では熱拘縮は生じなかった。しかるに、アルカリpH領域ではその程度の温度条件下でも容易に熱拘縮することが明らかになった。また、このような熱拘縮はアクチンフィラメント上に位置する調節タンパク質トロポニンの熱による脱感作に基づくものであった。これらの知見はアルカリ硬直や豚ストレス症侯群およびヒト悪性高熱症において観察される筋のけいれんや拘縮の原因をなすものとの推論を導き出すに足る証左を与えるものと考える。尚、これらの研究は全てウサギ大腰筋を使用したものであったが、これを組織化学的性質を異にする筋線維についても拡大し、出来れば本年度内に完成したいと考えていたが、この点については目下研究中の段階に留まった。
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