泌乳ラットにおける卵胞刺激(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)の分泌調節機構について、昭和60年度は卵巣の役割を中心に検討し、泌乳期間中のFSH分泌がほぼ一定の基礎レベルに抑制されている機構は泌乳前半と後半で異なり、前半期には主として吸乳刺激が、後半期には主としてインヒビンが重要な役割を演じていることを明らかにした。昭和61年度には吸乳刺激そのものによるFSHとLH分泌抑制機構について検討した。前年度に行った実験から、吸乳刺激は視床下部からのLH放出ホルモン(LH-RH)分泌を急激に抑制する可能性が示されたので、吸乳刺激により急激に放出され、かつLH-RH分泌を抑制する事実が知られている副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRF)とβ-endorphin(βE)のLH及びFSH分泌抑制作用について検討した。ラットは8匹哺育とし、泌乳2日に卵巣摘出、5日に乳子除去した後に側脳室内にステンレスカニューレを装着してCRFあるいはβE10μgを側脳室ヘ注入した。採血は右心房ヘシリコンチューブを装着して無麻酔下で行った。その結果、CRF及びβE投与群共に投与後30分以内にLH分泌が著しく抑制された。一方、FSHは6時間以降対照群に比べ低値で経過した。βE投与群では、投与後30分をピークとするプロラクチンの一過性大量放出がみられた。CRF投与群ではプロラクチン分泌に変化はみられなかった。 以上の成績から、吸乳刺激によるLHとFSHの分泌抑制機構にはCRFとβEが重要な役割を演じている可能性が示唆された。即ち、吸乳刺激に伴って放出されるCRFとβEが視床下部のLH-RH分泌細胞に作用し、LH-RH分泌を抑制する結果として下垂体からのLHとFSH分泌が抑制されることが推察された。今後は吸乳刺激によるCRF及びβEの分泌、これに引き続いておこるLH-RHの分泌抑制機構を更に詳細に検討すると共に、もう1つの抑制因子であるオキシトニンについても検討を進めたい。
|