1.昨年度にひきつづいて、兎成体を使用して血管系にラテックスゴム液601A(昭和ネオプレン)を注入した。全身の血管を生食水にて潅流したのち、大動脈には赤に着色したゴムを、肺循環には青のゴムを注入した。また気官支動脈の発生を同時に調査するため、約半数の材料については妊娠兎を使用し、上記ゴムを注入する前に、胎児を摘出して、その心臓からベルリン青水溶液を全身の血管系に注入した。ラテックスゴムを注入した20匹の材料については、ホルマリン固定後、実体鏡下に気管支動脈を肺内に追及剖出した。これまで調査した16匹のうち12匹(75%)に肺動脈と気管支動脈の吻合を認めた。吻合は比較的に肺門に近く、葉気管支の起始に沿った部分に見い出され、径0.2〜0.3mmである。吻合部の付近では、気管支動脈の枝に蛇行がみられる。 2.二腔心Corbiloculareを有する先天性心奇形の症例(生後2カ月 ♀)で、右肺門における右気管支動脈と肺動脈との吻合(径5mm)を認めた。この例では肺動脈幹は閉鎖し、かつ動脈管は存在せず、左右肺への血流は専らこの吻合を介して気管支動脈から供給される。肺動脈と気管支動脈との吻合は、慢性の肺疾患の際に出現するとの報告があるが、このたびの著者らの観察により、先天性心奇形の際にも出現することが判明した。肺動脈は肺に対する機能血管、気管支動脈は栄養血管という従来の考えは、必ずしも正確なものではない。 3.肺は1つの器官内に、体循環と肺循環の2つの異なる血管系が同時に分布する特異的なものである。必然的に肺内における両循環系の相互関係が問題になる。この点に関する従来までの報告に今回の著者らの所見を加えて、肺における血行動態の模式図を作成した。これによって、肺癌のときに制癌剤の気管支動脈内注入が有効な理由や、先天性心奇形に出現する肺静脈還流異常の成因がよく説明できる。
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