視神経と視覚中枢との特異的な神経結合の規定因子を同定する目的で、アフリカツメガエル幼生の視蓋(最も主要な視中枢)の細胞を抗原にしてモノクローナル抗体を多数作製した。前年度までの研究により、視中枢と特に強く結合するモノクローナル抗体(MAb-A5)を得、この抗体が認識する抗原分子(A5分子)が細胞表面の分子量が約14万ダルトンの蛋白質分子であることが明らかにされた。今年度は、A5分子の性質ならびにその生理機能を明らかにするため、次の解析を行った。1.眼球移植実験:免疫組織化学的な解析により、A5分子が視中枢以外にも、脳のごく限られた領域で発現していることが明らかにされた。脊髄と延髄ではGeneral Somatic Sensory Tract(GSST)と呼ばれる神経路にのみ発現している。そこで、アフリカツメガエルの発生早期に眼球の原基を脊髄の近傍に移植する実験を行ったところ、この移植眼球から伸び出した視神経は全てA5分子を発現しているGSSTに選択的に侵入することが明らかになった。このような眼球移植の結果は、視神経がA5分子を手掛りにして自己の標的を(正常な位置の眼球からの視神経は視中枢を、移植眼球からの視神経はGSSTを)識別していることを強く示唆している。2.血清抗体の作成:アフィニティークロマトと電気泳動を併用し、約3万匹のアフリカツメガエル幼生脳からA5分子を精製し、これを抗原としてラットを感作し、A5分子に対する特異血清抗体を作成することに成功した。現在、この血清抗体を用いて次の二点の解析を行っている。a.血清抗体による視覚神経回路の形成阻害の検討。b.A5分子をコードする遺伝子(cDNA)のクローニング。
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