生体の自律機能の調節は神経性およびホルモンなどの体液性因子によって調節されている。そしてある機能を調節するために、神経系または体液性因子が単独で働くことはなく、これらは相互に作用しあって調節を行っている。本研究は生体の自律機能のなかで呼吸と循環機能について神経性因子と体液性因子がどのように作用を及ぼしあっているかをしらべた。そのために麻酔下の家兎または犬において動脈より急速脱血を行ない腎交感神経で代表される神経性因子とアドレナリンおよびノルアドレナリンで代表される体液性因子について経時変化をしらべ定量的解析も行った。また呼吸運動のモニタと同時に動脈血中酸素分圧と炭酸ガス分圧の連続測定も行った。 この研究における成果は、1.循環系へ急速脱血を行って血圧低下の入力を与えると圧受容系を介する神経性によってのみならず同時にアドレナリンとノルアドレナリンの分泌増大によっても血圧調節が行われる。2.アドレナリンとノルアドレナリン分泌には、神経伝達物質としての増大のみならず神経を介さない機構が存在する可能性も示唆された。3.循環系の入力は同時に呼吸系への入力になり呼吸運動の速進を介して、自律神経には抑制的に働く。4.急速脱血による血圧下降分と交感神経活動の増加分は、ある程度の相関はみられるが、神経活動増加のレベルが小さい。この原因には、(1)同時に増加したカテコラミンによって中枢性に交感神経活動が抑制される可能性、(2)麻酔による、中枢性ならびに末梢受容器および効果器への抑制が考えられた。そこで自律機能の研究には無麻酔の条件が必要であると結論し無麻酔実験のための自律神経活動のモニタ法を最終年度に開始し半月から1ヶ月の長期に亘る定常的な記録に犬で成功し、今後の自律機能の研究に重要な足場となる基礎的成果を得た。
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