研究概要 |
ヒトのグルタチオンS-転移酵素(GST)5分子種(【I】-【V】)、ラットク分子種(【L_2】,BL,【B_2】,【A_2】,AC,【C_2】,【P_2】)およびマウス3分子種(【I】-【III】)を、それぞれの肝よりグルタチオンアフィニティカラムおよびクロマトフォーカシングによって高純度に精製出来た。これらの分子種の酵素化学的および物理化学的諸性質を調べ、また全分子種に対する特異抗体を作成して分子種の相互関係を免疫化学的に検討した。ヒト5分子種のうち、【II】は【I】と【IV】のハイブリッドで、【V】は胎盤型GST-Πと同一であった。ラットの塩基性6分子種のサブユニット、Ya、Yb、Ycのうち、Ybは二次元電気泳動法によって2種(YbY【b!′】)に分離さそれら、それらおよびYpサブユニットには等電点の約0.3異なるミクロ分子種の存在が認められ兎網状赤血球ライセートを用いた無細胞蛋白合成系でも確認された。ヒト(【V】)、ラット(【P_2】,GST-P)、マウス(【II】)型は基質特異性、N-末端アミノ酸配列、免疫交差性等の類似性が高く、前2者は肝に微量存在するがマウス肝では【II】型が主成分を占めていた。マウス雌肝中の【II】の量は雄の約十分の一であった。興味あることに、雄肝中の【II】の発現はテストステロンによって支配されていた。ジエチルニトロサミンと2-フルオレニルアセトアミドを用いるSolt-Farberの肝化学発癌モデル系のラットの前癌病変肝に著増する分子量2万6千/pI6.7の蛋白は、GST-Pと同定され、免疫組織化学的にも酵素変異巣(enzyme-altered foci)への局在が証明されたが、さらに前癌肝よりその精製法を確立した。GST-PはGSH抱合活性の他にペルオキシダーゼ活性を有し有機過酸化物の除法に働く他、塩基性6分子種のいずれかが活性阻害を受ける場合に代償的に誘導される可能性があり検討中である。肝前癌細胞を免疫組織化学的に特異的に高感度で検出できることから、GST-Pは新しい腫瘍マーカーとして発癌過程の解析に有用と思われる。
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