研究概要 |
高等動物の細胞核内では幾つかの核蛋白がポリADP-リボシル化されている。しかしながら、その生理的意義は未だ明らかではない。そこで、本研究では、ポリADP-リボシル化と遺伝子発現調節に着目して幾つかの試みを行い成果を納めたので報告する。初めに、ポリADPR合成酵素に対する抗体を用いて、Western blot,Dot blot法で、細胞中の本酵素量の定量法を確立した。そこで、ラットクロマフィン細胞を用いてNGFで神経分化を誘導すると、本酵素は、分化に伴い低下することが明らかになった(日本生化学会にて発表)。次に、ウサギ子宮より調製した一次培養細胞を用いて本酵素を定量するとその変動が追えるに充分な量は検出できなかった。そこで、計画を変更してmRNAレベルを測定する方法を準備し始めた。ポリADPR合成酵素に対するcDNAを含むクローンをcDNAライブラリーより拾い、同定した。このcDNAをプローブとして肝臓、胸腺から抽出したRNAのNorthern blotを行うと、本酵素に対するmRNA量が定量出来ることが判った。そこで、マウスマクロファージ腫瘍細胞をγ-インターフェロンを含む培地で培養し、主要組織適合抗原の1つであるIa抗原を誘導させた。このIa抗原は、AβDNAをプローブとして、各段階の細胞よりRNAを抽出しNorthern blotによりIa抗原が誘導されたことを確認した。一方、ポリADPR合成酵素に対するcDNAをプローブとしてハイブリダイズすると、γ-インターフェロン添加後は、日を追って本酵素に対するmRNA量の低下が見られた。ウサギ子宮からの一次培養細胞でも、この方法であれば充分な感度が得られると予測されるので、早速実行に移りたいと思っている。以上の結果から、本酵素は分化と共に減少し、分化に伴う遺伝子発現と密接な関係にあることが示唆された。
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