高カロリー輸液法や経腸栄養法などの非経口人工栄養法は、各種疾患や術後の栄養管理の面でその重要性ははかり知れない。しかし従来は、投与する栄養素の質と量にのみ関心が向けられ、回数や時刻といった投与方法の影響については、生理学的検討が全くなされていなかった。研究代表者らは、前年度の研究で、経腸栄養の1日内の投与パターンを変えると血中コルチゾールの日内リズムが大きく影響を受けることを明らかにし、生体リズムの観点から栄養投与パターンを検討する必要性を示した。そこで今年度は、中枢神経疾患のため重度の意識障害におちいり、経腸栄養を受けている患者を被験者として、コルチゾールのみならず血中代謝物や体温、尿排泄など多くの生理機能を指標として、それらの日内リズムの消長と栄養投与パターンとの関係を調べた。栄養液(エレンタール)を毎日午前8時から午後8時までの12時間に限定して投与した場合(間欠投与)には、いずれのリズムもほぼ正常に保たれていた。即ち、体温は早朝低く夕方に最高値となり、尿量も早朝に少なく夕方から夜半にかけて多くなった。一方、血中コルチゾール濃度は早朝にピークとなり夕方最低値を示した。又、栄養素の体内移行を直接反映すると思われる血中インシュリンやグルコースは、投与時間に一致して高値となった。これに対して、ほぼ同量の栄養液を一日中持続的に投与した場合(連続投与)には、尿排泄以外の全ての日内リズムは消失してしまった。しかし尿量はやはり早朝に少ないリズムが維持されていた。これらの結果から、通常の食事リズムに模した昼間の間欠投与では生体リズムは正常に保たれるが連続投与では、各種リズムの消失ないしは互いの脱同調がおこることが明らかとなり、前者の方が投与法として生理的により適当であると結論された。
|