研究概要 |
私どもは塩基性抗原を用いたin situ immune complex(IC)型腎炎について報告してきた。昭和60年度では、1ヒトIgGだけでなく電顕的にとらえうるフェリチンを塩基化し、in situ IC腎炎を惹起しうること、2.このモデルにおける糸球体基低膜(GBM)の障害様式、およびメディエーターの解析に力を注いだ。フェリチンを用いた実験から、(1)in situ IC形成が最初に起こる場所はGBMの内皮側であること、(2)この初期に血中由来の単球がICの処理に関与すること、(3)発症後1日でICはGBM内、および上皮側に移動すること、(4)一部の塩基性抗原(おそらくはICの形で)はメサンギニウムにクリアーされることが判明した。(5)GBMの陰性荷電が塩基性抗原のGBMへの結合に重要であることは、塩基物質である硫酸プロタミンを前投与しておく実験から再確認された。しかし腎炎発症後(IC形成後)硫酸プロタミンを,頻回投与しても腎障害を抑制することはできなかった。(6)腎炎の惹起前、および経過中にコブラ毒、抗単球抗体、抗好中球抗体を投与すると蛋白尿が著名に抑制された。昭和61年度は3、前年度からの継続としてGBM障害を質的に検討するため尿蛋白をSDS-ポリアクリルアミド電気泳動法で検索すること,4、単離糸球体培養法を用い、前年度の研究より明らかとなった単球系細胞のメディエーター、およびそれと糸球体固有細胞増殖機構との関係について解析した。(1)尿蛋白の解析から私どもの腎炎モデルの腎障害は馬杉腎炎(抗GBM抗体型腎炎)と類似しておりGBM由来の物質も尿中に排泄されていること、(2)血中単球培養上清中にメサンギウム細胞を著明に増殖させる因子が存在すること、(3)メサンギウム細胞培養上清中にIL-1類似物質が存在することが判明した。以上の成果から現在まで全く不明であった遅延型アレルギーを介した腎糸球体障害、糸球体固有細胞の増殖、ひいては糸球体硬化へ至る慢性化の機構を解明するための準備段階はととのったと言える。
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