研究概要 |
1.鉄のweak chelating compoundであるFerric nitrilotriacetate(【Fe^(3+)】-NTA)をラット腹腔内に長期注射する事により、ヒトのHemochromatosisに相当する病変を実験的に作ることができ、2.このラットにみられる重症の糖尿病がラ氏島における鉄の沈着に由来することを見出した。3.【Fe^(3+)】-NTA一回注射後、血中に一過性にGOT,GPT,γ-GPTの上昇を見出し、肝細胞膜系の脂質過酸化は、【Fe^(3+)】-NTAによることを明らかにした。4.【Fe^(3+)】-NTAによる脂質過酸化は、【Fe^(3+)】-NTAが酸素をsinglet oxygenに変換することにより惹起することを解明した。5.これらの【Fe^(3+)】-NTAによる鉄の細胞障害のモデル実験結果をふまえて、(1)ウェア(Weir)等の法により輸血脾からヘモジデリン(Hs)を抽出精製し、その精製品中に鉄(28.6±0.2%),燐(0.15±0.0002%),リポフスシン(9.4±1.1 unit/mg Hs)が含まれることを確認した。(2)このヘモジデリン自身にはリノレン酸を基質としたラジカル発生による水素取込み反応を認めることはできなかった。(3)そこで生体内のligandであるアスコルビン酸でHs中の鉄を可溶化する可能性を求めると、吉野らの既報のごとく、PH5.0以下で著明な可溶化が認められた。(4)クエン酸,ADP,コハク酸,DesferalなどではPH4.0においても可溶化は殆んど認められなかった。(5)しかしクエン酸に還元剤GSHを添加するとPH5.0以下で強い可溶化が認められ、GSH自身にはこの可溶化作用は殆んど認められなかった。またDehydro ascorbateには可溶化能はみられなかった。(6)生体内で存在し得る鉄錯体のPH4.0から7.4の間で【H_2】【O_2】を添加した時に生じる水酸化ラジカル(・OH)産生能力を比較した結果、PHが低いほど水酸化ラジカル産生能は高く、PH7.4では殆んど認められなかった。この結果、細胞内で【H_2】【O_2】を基質として鉄錯体が惹起し得る・OHラジカルによる細胞障害が細胞内のPHで左右されることが示された。【Fe^(3+)】-NTAのモデル実験で得られた結果を参考にして生体内で生じ得る鉄錯体による細胞障害の可能性が実証された。
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