フェカリス菌(S.faecalis)は心内膜炎、尿路感染症、各種化膿性疾患の起因菌として知られている。S.faecalisの生産するβ溶血毒素はこの菌の病原因子の一つと考えられている。S.faecalis菌には、グラム陽性菌では唯一の高頻度に接合伝達するプラスミドが存在する。プラスミドをもつS.faecalis(供与菌)は、受容菌が生産する低分子(アミノ酸8個)のペプチドに反応し、その菌体表面を均一に被う凝集物質を生産する。供与菌は凝集物質により受容菌と接合凝集を行い、プラスミドが受容菌に高頻度に接合伝達される。本研究は臨床分離フェカリス菌のβ溶血毒素生産株の中で、伝達性プラスミド上にβ溶血毒素生産遺伝子が存在するものにつき、そのプラスミドの比較構造解析をすることを目的とする。 97株の臨床分離フェカリス菌の中で、58株(60%)がβ溶血性を示した。58株中31株においてβ溶血遺伝子が伝達性プラスミド上に存在した。β溶血性と薬剤耐性は連関性がみられなかった。これらのプラスミドは高頻度(供与菌当り【10^(-2)】〜【10^(-1)】)で接合伝達する。31株のβ溶血プラスミドの中で、28株は同一のフェロモン(cAD1)に反応し接合伝達することが解った。28株のプラスミドから10株を選び、制限酵素による構造解析を行った結果、すべてのプラスミドが同一構造をしていた。この10株のプラスミドと、アメリカ合衆国で分離された、フェロモン(cAD1)に反応するプラスミドpAD1(56.7Kb)とのDNA-DNAhybri-dizationを行った結果、10株すべてのプラスミドはこのpAD1プラスミドと構造が同一であった。以上の結果、フェカリス菌においてはβ溶血毒素生産能をもつ伝達性プラスミドは同一構造をしており、このようなプラスミドが臨床分離フェカリス菌に広く分布していることが解った。
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