研究概要 |
生体内で惹起する免疫反応は本質的には抗原特異的なものであり, 抗原刺激により活性化された抗原提示細胞とT細胞によるシグナルをうけ, B細胞は増殖分化し最終的には抗原特異的な抗体を分泌する形質細胞へ成熟する. 最近の目覚しい遺伝子操作法の進歩により種々のサイトカインが分離精製され抗IgM抗体などとの共存下でB細胞にポリクロナルな刺激を加え, その結果産生される非特異的な抗体総量を測定することによりB細胞の分化成熟過程を解析する方法が多くの研究者達に導入されている. しかしながら, 前述のごとくB細胞の分化増殖機構のための実験モデルは, 抗原特異的な系がより望ましいと考えられる. 我々はここ数年間HAT選択培地感受性を示すB細胞変異株と正常マウスB細胞との間で細胞融合を施行し, B細胞由来の分化遺伝子を有するB細胞ハイブリドーマをB細胞分化過程を知るためのモデルとして実験に供してきた. 今回, TNP-LPSで免疫したA/J系マウスの脾臓B細胞とHGPRT酸素欠損B細胞変異株との間で細胞融合し, 樹立に成功した代表的なsubcloneであるTP67.21を用いた実験結果の概略を記載したい. FACS解析によりTP67.21の細胞表面にはIgM, B220, IA^K, IF^K, P50などB細胞に特徴的なマーカーが存在し, かつTNP-SRBCを標的とするロゼット法により細胞表面にはTNP基特異的受容体が存在することが証明された. このTP67.21をLPS, 抗IgMおよびB151-TRFなどで刺激を加えると著明な抗TNP産生細胞へ分化することがTNP-PFC法により確認された. さらに興味あることに, T細胞依存性抗原であるTNP-KLH, TNP-BSA, TNP-OVAなどを加えて培養してもT細胞の介助なしに有意に抗TNP産生細胞へ成熟した. 以上の実験結果はB細胞表面上に依存する抗原受容体と抗原との直接的なcross-linkageによりB細胞分化成熟のための何らかのtransduction signalが細胞内へ伝達される事を強く示唆している.
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