研究概要 |
糸球体腎炎におけるメサンギウム細胞の増殖機構を解明するためにラット培養メサンギウム細胞を用いて、1.アンジオテンシン【II】(A【II】)及び血小板由来増殖因子(PDGF)の増殖効果,2.A【II】作用時のイノシトールリン脂質代謝(PI代謝)の変動について検討した。ラット培養メサンギウム細胞の培養はTanakaらの方法に準じて単離糸球体より培養した。1.A【II】及びPDGFの増殖効果:24時間incubation後の[【^3H】]-thymidineの取り込みを測定すること、すなわちDNA合成能を測定することにより増殖効果を判定した。A【II】単独ではDNA合成に影響を与えなかったが、insulinまたは10%-plasma derived serumを同時添加すると著明な合成亢進作用を認めた。このDNA合成亢進作用はA【II】受容体拮抗薬であるsaralasinにより抑制された。同様にPDGFもinsulinとの同時投与によりDNA合成を促進させた。2.A【II】作用時のPI代謝:A【II】は投与15秒以内にphosphatidylinositol 4,5-bisphosphate(PI【P_2】)の減少とdiacylglycerol(DG)の産生増加をもたらした。この効果はsaralasinにより抑制された。以上より、A【II】とPDGFは培養メサンギウム細胞に対し、増殖因子として作用する可能性が示唆され、A【II】作用時の細胞内情報伝達機構として、phospholipase CによるPI【P_2】の分解が重要と考えられた。この結果産生されるDGは蛋白質リン酸化酵素であるCキナーゼを活性化させ、また、もう一つの産生物質であるinositol-1,4,5-trisphosphateは小胞体からの【Ca^(2+)】遊離を促進することにより増殖作用の発現に寄与するものと考えられた。尚、ラット培養メサンギウム細胞におけるCキナーゼの存在についてはすでに報告済みである。しかしながら、A【II】のメサンギウム細胞に対するこの増殖作用がA【II】の直接作用なのか、またはprostaglandin等の産生亢進による二次的作用なのかに関しては今後の研究課題となっている。
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