研究概要 |
腎臓は左右にあることから、治癒し難い一側性腎疾患時には片腎摘することがある。さらに近年腎移植の普及により、正常腎でも片腎摘されることが多くなった。しかし、片腎摘後数年あるいは数10年後に高血圧や腎機能低下をきたしてくる頻度は、健常者に比し明らかに高い。そこで本研究では、片腎摘されたものがどの程度高血圧を発症してくるのか、腎機能の悪化の程度をも合わせて検討した。さらにこのような高血圧の発症原因を究明するため、ウィスター雄ラットと高血圧自然発症ラットを用いて検討した。 ヒトの検討は、何らかの原因で3年以上前に片腎摘された34名の患者を選び、片腎摘の原因,高血圧素因,血圧や腎機能状態,血液化学検査所見および諸ホルモンの状態を検討した。その結果34名中17名(50%)に160/95mmHg以上の高血圧を認め、そのようなものでは腎機能の悪化例が多いことが判明した。諸ホルモンの検査では、血漿レニンやアルドステロンは両側の腎臓のある同年令の対照者より低値であり、さらに尿中カリクレイン排泄量も明らかに低値であった。このほか腎結核など残存腎が多少とも障害されている場合に、高血圧が発症しやすいことも明らかとなった。 動物実験では、正常ウィスター雄ラットで片腎摘し、7カ月間観察したが、幼若期に片腎摘した方が成熟してから片腎摘するよりも高血圧の発症が徐々であること、片腎摘にNa負荷すると高血圧が一層発症しやすいことが判明した。さらに【5/6】腎摘すると高血圧の発症頻度が高くなった。また高血圧自然発症ラットに【5/6】腎摘すると著明な高血圧と腎機能低下をきたした。 以上の成績より、片腎摘後は高血圧が発症しやすく、その高血圧は残存腎の機能状態、すなわち代償性肥大にもとずくNaや水分の排泄能が、密接に関係している可能性がつよいと結論された。
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