研究概要 |
劇症肝炎は死亡率が70〜80%という極めて難治性の疾患であるが、その発症機序は未だ全く不明であり、研究の礎としての実験モデルの作製が待たれている。そこで、当教室ではpropionibacterium acnes(p.acnes)を用いてマウスまたはラットの肝に単核細胞の動員、増殖を計り、次いで微量のlipopolysaccharide(LPS)を追加静注して、肝の広範な壊死を伴う肝不全モデルの作製を試みた。さらに、その発生機序を解析するため本モデル〓を用いて検討した。さらに治療薬の開発についても試みた。その結果、P.acnes加熱死菌をマウスまたはラットに静注し、7日後にLPSを静注すると、ほとんどの動物は意識障害をきたして24時間以内で死亡した。その肝の組織学的検討ではヒト劇症肝炎類似の広範な肝細胞壊死像が確認できた。また、その発生機序を解析した。その結果、肝組織に浸潤した単核細胞はP.acnesおよびLPSで二段階で活性化されると肝細胞障害因子を産生分泌することが判明した。この細胞障害因子は分子量2〜4万で温度に比較的不安定な物質であり、DNase,RNase,neuramindase処理で影響をうけず、trypsinで活性がなくなった。なおTNFとは異なる物質である。さらに、この急性肝不全モデルを用いて治療薬の開発を試みた。その結果、リポコルチンの産生を促してphospholipase 【A_2】活性を抑性するゴミシンA,lipoxygenase拮抗剤であるAA861,ロイコトリエン拮抗剤およびロイコトリエンの産生遊離を抑制するazelastineおよびプロスタグランディン【E_1】誘導体をLPSと同時に投与すると、生存率は著明に上昇し、また肝の組織像も改善された。すなわち、この急性肝不全モデルの発生にはアラキドン酸の代謝が関与しており、特にロイコトリエンが発症の鍵をにぎっていることが示唆された。以上の結果より、ヒトの劇症肝炎の病態を解析する上で極めて重要な知見を与えたものと考える。
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