研究概要 |
本年度は、昭和60年度に明らかにした類洞内皮細胞小孔(sinusoidal endothelialfenestrae;SEF)開閉機構における内皮細胞内actin,calmodulin,calciumの関与をより明確にし、さらに実験的並びにヒト硬変肝におけるSEFの変化を電顕的に観察するとともに肝硬変における"vicious cycle"発現機構を追究した。actinの重合を阻害するcytochalasinB(CB)を腸間膜静脈枝より注入した肝の未固定凍結切片に抗actin抗体を用いた螢光抗体間接法を施すと、actinの存在を示す特異螢光は前年度報告した健常肝細胞形質膜に沿った線状パターンと異なり、肝細胞あるいは類洞壁細胞内で局所的に凝集し不規則な分布を示した。Berry&Friendの変法で分離した類洞内皮細胞の培養液中にCBを添加しても同様の所見を認め、特異螢光の一部は顆粒状を呈した。走査型電顕による観察ではCB持続注入肝においてSEFは著明な癒合・拡張像を呈し、肝細胞の類洞側表面に形成されたblebが拡張したSEFから類洞腔に突出している像が観察された。培養類洞内皮細胞においてもCB添加によって細胞辺縁の微小樹枝状突起が形成され、SEFの癒合・拡張像が明瞭に観察された。透過型電顕ではCB注入肝の類洞内皮細胞間間隙あるいはSEFの拡大所見が認められ、類洞内皮細胞には空胞形成が目立った。培養類洞内皮細胞においても、CB添加によりSEFは著明に拡張し、その周囲のmicrofilamentsは顆粒状を呈した。calcium ionophore投与により細胞質内calcium濃度を上昇させるとSEFは著明に収縮した。以上よりSEFの収縮・拡張機構には類洞内皮細胞内actin filamentsがcalcium-calmodulin系の存在下で重要な役割を果すと考えられた。一方、慢性四塩化炭素による実験的硬変肝およびヒト生検硬変肝において、類洞内皮細胞小孔の数は減少し、径は縮小していた。これにより類洞における血液と肝細胞の物質交換が障害され、肝細胞変性とそれに伴う肝線維化を進展させ、"vicious cycle"を生じるものと考えられた。
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