研究概要 |
肝硬変による死亡率は、戦後年々の増加傾向にあるが、肝炎から肝硬変への進展機構の解明はこの対策確立の基盤をなす。臨床上慢性肝炎から肝硬変に移行する際、肝血行動態の変貌が最も顕著である。肝臓の循環系は門脈と肝動脈の二つの輪入血管で特徴づけられ、毛細血管に相当する部分は類洞という特殊な構造を示す。基底膜を欠き、類洞内皮細胞には多数の小孔(類洞内皮細胞小孔、sinusoidal endothelial fenestrae:SEF)が存在し、血液ー肝細胞間の物質交換を容易にし代謝の中心臓器としての円滑な機能を可能にしている。本研究では、肝微小循環調節機構におけるSEFの役割をcytoskelctal systemの観点から究明し、肝硬変時におけるSEFの開閉機能不全の重要性を指摘する。細織化学的並びに電子顕微鏡学的にアドレナリン及びコリン作動性神経終末は門脈域内の門脈枝及び肝動脈枝血管壁、さらには門脈域周囲の類洞内皮細胞にも近接して認められた。免疫電子顕微鏡、potassiura antimonate法による肝組織、初代培養類洞内皮細胞の観察及びin vitroの実験系からCa^Hーcalmidulin-actomyasin系がSEFの開閉に重要な役割を果すと考えられた。各種自律神経作動薬投与による類洞血流の増減に応じて肝類洞並びにSEFが拡張あるいは縮小した。in vitroでもSEFに同様の変化が観察された。長期四塩化炭素投与による肝硬変ラットにおいて肝小葉内局所(類洞)血流量は低下し、同時に血中histamine,norepincphrine,endotoxinの上昇がみられた。ラット及びヒト肝硬変において類洞の毛細血管化と共に類洞内皮細胞小孔の径並びに数の減少が証明された。以上より肝硬変では物質交換に有利な"open circulation"から"closed circulation"へ変貌し、類洞の毛細血管化と共にSEFの径及び数の減少は血液ー肝細胞間の物質交換を阻害し、肝細胞障害進行の悪循環(vicious cycle)の引き金になると共に門脈圧亢進の一要因として重要であると考えられた。
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