研究概要 |
〈目的〉ヒトの脳,血管壁および副腎内レニンの酵素学的諸性質を明らかにするとともに、これらの各種臓器内レニン・アンジオテンシン系の高血圧における意義を検討する。〈方法〉18例の剖検例の脳(下垂体,松果体)と胸部大動脈および手術により摘出した副腎腫瘍(原発生アルドステロン症4例ならびに褐色細胞腫2例)から既報の方法によりレニン分画を抽出し、DEAE-セファロース・イオン交換クロマト,セファデックスG-100ゲル濾過,コンカナバリンA-セファロース・アティニティークロマトおよび等電点電気泳動の順に精製した。精製したレニンについて、分子量,至適pH,糖成分の有無,酵素学的カイネティクスおよび等電点を検討した。レニン活性は試料に合成ヒトレニン基質を加えて生成されるアンジオ・テンシン【I】を測定し、抗ヒト腎レニン抗体により抑圧される部分を特異的レニン活性として算出した。〈成績〉レニンの分子量は、下垂体38000〜46000,松果体44000,胸部大動脈42000〜44000,原発性アルドステロン症および褐色細胞腫の副腎腺腫ではそれぞれ34000〜46000および48000。上記の各種臓器内レニンの至適pHはいずれも6.0〜6.5の範囲に認められたが、等電点は下垂体レニン4.72 4.78 4.86 5.06 5.28および5.44果体レニン4.82 4.96 5.01原発性アルドステロン症および褐色細胞腫の副腎腺腫レニンはそれぞれ4.82 4.96 5.01 および4.78 4.86 4.97 5.20であった。松果体および褐色細胞腫内レニンはともにコンカナバリンAに100%結合性を示したが、下垂体ならびに原発性アルドステロン症の副腎腺腫レニンは18〜65%および0.9〜76.5%の結合性を示したにすぎなかった。〈考案と結語〉レニンは腎のみでなく、脳,血管壁および副腎内においてそれぞれ独自に産生されるものと考えられる。これらの各種臓器内レニンは、アンジオテンシン【II】生成を介して、抗利尿ホルモン分泌(下垂体),血管収縮動脈壁),アルドステロンおよびカテコラミン放出(副腎)を促進して、血圧調節に関与すると推察される。
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