体表面電極による無侵襲的なヒス束近傍の電位測定は数百心拍の加算平均によってある程度の成功をみている。しかし一心拍ごとの情報収集に関してはその成功をみていない。その理由には体表面でのヒス束電位は測定系や筋電の雑音レベルに近いか等しいということが挙げられる。本研究では被験者と測定系間での総合的な雑音を各要素ごとに解析し個々に雑音抑制対策を講じる。また、複数組の電極とミニコンピュータによる雑音抑制アルゴリズムを使用して、筋電その他の雑音に埋もれた信号成分を抽出する。これにより今まで雑音のために困難とされていた体表面電極による加算平均によらない一心拍ごとのヒス束電位検出の可能性を見いだす。実験法としては左中腋窩を通る胸部斜断面周辺上に等間隔に複数の体表面電極を配し、心尖部下位共通電極(陽極)を置いた。この陰極電極で構成された胸部斜断面に沿ったX線CT断層像をもとに、電極間や電極ヒス束推定部位間の位置関係を測定し、計算用パラメータを得た。生体よりのデータの収集はシールドルーム内にて行ない可能な限りの直接外来雑音を排した。各電極から得られた信号は約20万倍に増幅しA/D変換したのち、有限要素解析の入力データとした。この結果、房室電気活動間に明確なそして定常的な波形を毎心拍記録した。この定常波形の立ち上り時間は、侵襲的に得られたヒス束活動電位と時間的に一致していた。また、計算により得られたヒス束電位はカテーテルで得られるような一過性のものではなく、多くの場合、心室活動電位まで続いた波形であった。このことはカテーテルで得るよりも広い範囲のヒス束電位を観察できる可能性を示している。
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