研究概要 |
新生児期から乳児期にかけて、男児ではテストステロン(T)分泌が著明に増加する。本年度はTからデヒドロテストステロン(DHT)への変換、Tの成長因子(Sm-C)分泌への関与を検討した。〈結果〉1.幼若乳児と成人の血清DHT,T濃度を比較した。幼若乳児ではDHT0.641±0.397ng/ml,T269.4±171.1ng/dl(M±SD),成人ではDHT0.681±0.150,T674.0±152.4,DHT/T比は幼若乳児0.246,成人0.104であった。DHT濃度には差を認めないが、DHT/T比は幼若乳児が有意に高値であった。2.新生児,思春期前,成人男性包皮線維芽細胞を用いた検討、(1)5α-リダクターゼ活性は加令による変化はなく、1080〜7400pg5α-reduced steroids/ug・DNAであった。(2)線維芽細胞のDHTreceptorのBmaxは新生児:489±119,3-8才:692±123,10-12才:607±170fmol/mg・DNA,Kdは新生児0.13±0.03,3-8才:0.18±0.06,10-12才:0.18±0.05で、いずれも有意差を認めなかった。(3)DHTreceptorの質的差異の有無を見る目的でDHT-receptor complexの安定性を検討した。0,25,37℃ incubateでDHT-receptor complexのdissociation rateは新生児と成人で差を認めなかった。(4)Aromatase活性は新生児0.27±0.26,成人0.86±0.60 pmol/mg・protein/hrで新生児が有意に低値であった。(5)線維芽細胞のSm-C産生に対するTの影響の検討では、Tは直接作用としてはSm-C産生に抑制的に作用した。〈考察〉幼若乳児でT→DHTへの変換が促進しているのは、5α-reductase活性には差がないものの、aramatase活性が低いため、TからDHTへの変換が成人より優位に作用したためと推測される。DHT-receptorに加令による質的、量的差異が認められないこと、TはSm-C産生に抑制的に作用することから、幼若乳児期のT,DHT高値は、この時期の急激な身長増加に関与しているとは考えにくい。それ故、T,DHT高値は小児期の性分化、性成熟に対するpriming的な役割を果している可能性が強いと推測している。
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