小児の先天性心疾患の診断において断層心エコー図は極めて有力であり、最近では新生児早期の重症先天性心疾患に対しては、症例によって、カテーテル検査などの侵襲的検査を行なわないで、心エコー図のみで非侵襲的に診断を確定して手術を行なう場合も増加する傾向にある。従って、断層心エコー図で、出来得る限り正確かつ詳細な診断が要求されるようになっている。そのためには、実際の断面解剖と照らし合わせて、断層エコー像の心臓の各部位を同定していくことは診断精度の向上へと繋がる。また先天性心疾患の胎内診断も行なわれるようになり、胎児心臓の胎児内での空間的位置関係、胎内での断面解剖などの基礎的研究が必須であった。これに対し、我々は昭和60年度には主にラットの新生仔を用い、昭和61年度には主にラットの胎仔を用いて断面解剖の研究を行なった。ドライアイスアセトンまたは液体窒素による全身急速凍結法で凍結させたラットを凍結ミクロトームを用いて任意の断面で切り、その断面を実体顕微鏡で観察して断層心エコー図の像と比較同定を行なった。 その結果、ヒトとラットの種属間の相異はあっても、ラットの心臓断面を理解することは、ヒトの心臓断面の細部の同定を行なうのに極めて有力な情報を提供することになり、結果的にヒトの断層心エコー図について、細部まで解剖学的な同定が可能となった。また、ラット胎仔の断面解剖を理解することにより、ヒトの胎児心についても断面解剖を理解する手助けとなり、ハイリスク妊婦の胎児心エコーによって、完全型心内膜床欠損症を正確に診断することが可能であった。
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