研究概要 |
昨年度の報告で、精神分裂病群のうちのあるタイプの症例では、血小板をトロンビン刺激した時に観察されるホスファチジールイノシトールサイクルの1,2ジアシルグリセロールからホスファチジン酸への転換が阻害されていることを明らかにした。これら血小板模リン脂質の代謝産物の1つとしてプロスタグランディンがある。プロスタグランディンE(PGE)は中枢神経系においてカテコラミン神経伝達の調節に重要な作用を持っている。また、近年精神分裂病においてプロスタグランディンの異常が種々な視点から想定されている。このようなことから、今年度は精神分裂病患者39名、他の精神障害15名、正常対照者23名の血漿中の【PGE_2】活性を測定した。患者サンプル測定の前に、市販されている【PGE_2】ラジオイムノアッセイ(RIA)キッドの信頼性を確立する為に正常対照者15名、分裂病者2名の血漿中の【PGE_2】を化学イオンソース検出器付ガスクロマトグラフ-マススペクトロメトリーとRIAにて測定した。その結果、両測定値の相関率は0.934であり、RIAを実際の測定に使用できると考えられた。精神分裂病,他の精神障害,正常対照群の血漿中【PGE_2】をRIAにて測定した結果の平均値±標準偏差は、それぞれ、5.5±4.2pg/ml,4.4±2.5pg/ml,3.3±1.8pg/mlであり、精神分裂病では統計学的有意に(t=2.85,p=0.008)高値であった。精神分裂病において臨床歴や精神症状と血漿中【PGE_2】免疫活性との関係をみてみると、PGE免疫活性の高い群は低い群に比し、入院期間が有意に短く、BPRS精神症状評価表中の運動減退項目得点が有意に低いことが明らかになった。以上の結果から、精神分裂病群のうちあるタイプでは【PGE_2】がその病態生理に関与していることが推定された。
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