研究概要 |
筆者らは肥満並びに糖尿病状態において胃や膵よりのソマトスタチン(SS)分泌の亢進し、肝での代謝は遅延する事実を認め、この結果生ずる高SS血症が肥満や糖尿病の成因に重要な役割を果たしている可能性を明らかにした。SSはneuropeptideとして神経系に存在しているので、体液性の調節よりも神経系の調節の方がより重要であると考えられる。そこでまずSS分泌の神経系調節機構の解明を試みた。ラットの単離胃・膵灌流系に迷走神経を附着させた状態で摘出し、迷走神経を1ms,10V,10Hgの矩形波により刺激した。迷走神経の刺激によりSSの分泌は有意に抑制された。muscarinic antagonistである【10^(-5)】【10^(-7)】M atropine存在下で迷走神経を刺激すると、刺激により低下するSSは逆に有意に分泌が促進された。つぎにnicotinic antagonistである【10^(-4)】M hexamethoniumの存在下で、迷走神経を刺激したが、SSは全く変動せず、電気刺激によるSSの変動は全く阻害された。opiate antagonistである【10^(-6)】M naloxone存在下で迷走神経刺激によるSSの分泌は影響されなかった。近年迷走神経にadrenergic fiberの存在下が指摘されている。そこでα-adrenergic antagonist 【10^(-6)】M phentolamine或はβ-adrenergic antagonistである【10^(-6)】M propranolol,さらに【10^(-6)】M phentolamineと【10^(-6)】M propranolol同時存在下で迷走神経を電気刺激したところ、迷走神経刺激によるSS分泌の抑制に何ら影響は認められなかった。一方、迷走神経を刺激しない状態で【10^(-6)】M naloxoneはSSの分泌を抑制し、【α_2】-antagonistである【10^(-4)】MDG5128はSSの分泌を著明に促進した。以上の事実から迷走神経はcholinergic neuronを介してSSの分泌を抑制し、non-cholinergic neuronを介して促進的に作用する。両neuronはnicotinic receptorを介する節前線維の支配をうけている。opiate neuronやadrenergic neuronは迷走神経そのものによるSS分泌にはあまり大きな役割を果たさずそれぞれ独立した機構によってSSの分泌調節機構に関与している事実が明らかとなった。
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