研究概要 |
目的:単純冷却浸漬保存による犬12時間保存心を同所性に移植し, 本法の臨床応用への可能性を検討した. 対象と方法:ほぼ同体重の雑種成犬で15組のdonor-recipient coupleを作った. donor犬の大動脈遮断後, 4゜CのCo-11ins´M-verapamil cardioplegia液を用いて急速な停止冷却心を得た後graftを摘出した. graftは0〜4゜Cの同液に12時間単純に浸漬保存された後, 体外循環下に同所性に移植された. 移植操作中のgraftの復温防止と代謝産物のwash outの目的で, 10例で4゜Cの電解質液を用いて冠静脈洞より逆行性に持続冠潅流した. 移植後体外循環より離脱し, reciplent固有の循環を維持できなくなるまでを観察期間とした. 保存終了後, 左室自由壁の一部を全層採取し, graftのviability評価のために組織学的に検討した. 結果:graftの全阻血時間は9.0-15.5時間(平均11.6時間), 移植後graftがrecipient固有の循環を維持しえた時間は3.0-36.8時間(平均8.4時間)であった. 移植操作中の逆行性冠潅流施行群と非施行群間でのrecipientの生存時間は各々9.4±3.2時間, 3.6±0.9時間で統計上は有意差はなかったが, 逆行性冠潅流施行群で生存時間は長い傾向にあった. また体外循環離脱前の循環補助時間は, 施工群1.93±0.06時間, 非施行群2.57±0.23時間で施行群が有意に(P<0.05)短く, 逆行性冠潅流の有効性が示唆された. 保存直後の左室自由壁の光顕像ではcontraction bondsの出現や細胞間隙の浮腫がみられず, 保存状態は良好であった. 結論:recipient犬の死因として心原性によるものでなく, 血圧を十分に保ちながらも発生した呼吸不全であった. 体外循環時間の可及的短縮, 膜型肺の使用, 移植操作中の肺の保護, 術後の呼吸管理の改善などが, 成績向上に大切と考える. 保存心の左室心筋に虚血障害を示すといわれるcontraction bandsが認められなかったことから, 本法による12時間保存はなお追求の価値がある.
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