致死的な脳血管攣縮を合併したクモ膜下出血、髄膜炎および被殻出血手術の計10症例とイヌの視交叉槽に血液やエピネフリンを注入して作製した脳血管攣縮モデル30例の両群より採取された攣縮血管を光顕、電顕的に検索した。〔結果〕(1)致死的な脳血管攣縮を合併した症例やイヌでは視床下部に虚血性変化がみられた。また、クモ膜下腔の小血管より多数の炎症細胞や血液物質が漏出していた。(2)臨床剖検例では脳血管攣縮は原因の如何を問わず同様な血管病変を惹起した。(3)内膜は光顕的には内皮下層の水腫と結合組織の増殖を示し、血管内腔を形態学的に狭容していた。電顕的には内皮細胞間にopen junctionがみられ、内皮下層ではmyofioroblastが増殖し多量の結合組織や基底膜様物質を産生していた。(4)中膜は光顕的に筋細胞の好酸性の凝団壊死により絶対数が減少し、血管壁の菲薄化と血管内腔の拡張がみられた。(5)電顕的には中膜筋細胞壊死の基本的特徴は筋線維の融解であり、これらは微細胞顆粒状物質に置換していた。(6)細胞内器官は腫大した粗面小胞体と糸粒体のみが残存し、胞体内には多数のライソゾームがみられた。(7)細胞間隙では基底膜様物質の増加と多量の細胞残渣がみられた。(8)イヌの視交叉槽に1cc/kgの血液を注入しても臨床剖検例に似た中膜筋細胞壊死を作製し得なかった。(9)しかし、0.2mg/kgのエピネノリンを注入すると、実験2日目より90日目にかけて中膜筋細胞壊死が観察された。(10)中膜筋細胞壊死は視床下部の軟化巣とクモ膜下腔の小血管の透温性亢進を合併したイヌで顕著であった。(11)エピネフリンの視交叉槽内注入により作製された実験的脳血管攣縮は臨床剖検例にみられるものによく似た中膜筋細胞壊死を呈した。 〔結論〕脳血管攣縮は刺激物質による血管の機能的収縮→中膜筋細胞壊死による血管の麻痺性拡張→内膜肥厚による血管内腔の形態学的狭容の三相性変化を示した。
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