HLA-DR抗原がヒトの脳内に存在することや、マウスIa抗原が脳内に存在し、インターロイキン-1やインターロイキン-3様物質が、脳実質内より産出されるという報告がなされる様になった。この様な事実より、従来immunological privilege siteと考えられてきた脳実質内にも免疫応答が起りうると考えられた。当教室で樹立したヒトグリオーマ培養細胞を用いた実験でも、HLA-DR抗原を有するグリオーマ細胞が17細胞株中5例に認められた。しかし、リンパ組織が無いことや血液脳関門が存在することなどより、他臓器と異なり、このHLA-DR抗原が如何なる細胞(グリア細胞)に存在するかを調べることは非常に重要である。従来の解剖学の考えでは、骨髄細胞より派生したマクロファージが、脳血液関門を通過してマイクログリアになり、ヒトではHLA-DR抗原(マウスではIa抗原)を有している可能性が一番高い。そこでB6C3【F_1】雌マウスの骨髄細胞を、950Rad全身照射したC57BL/6リタイヤマウスに移植し、(【F_1】into parent)chimeraマウスを作製し、約6ケ月間生存しえたマウスを実験に用いた。フローサイトメトリーにて、【H-2!k/b】形質を持った脾細胞の割合を調べ、chimeraマウス作製の確認をした上で、マウスモノクロナール抗【Ia^k】抗体を用いた間接蛍光抗体法で、脳実質内の【H-2!k/b】形質保有細胞の存在を検索した。chimeraマウスを作製してから6カ月間生存しているマウスは、最初の総数(97匹)の約1/3(30匹)にすぎなかった。このマウスの総数30匹分の脳について、【Ia!k/b】抗原の存在を調べたが全く同定できなかった。またマウスインターフェロン・ガンマを脳室内に注入した5匹のマウス脳についても調べたが、結果は同じくIa抗原を同定できなかった。この事実は、Ia抗原が骨髄由来のマイクログリアに存在すると言うよりも、他の研究者の報告にもあるように、アストログリアに主として存在する可能性が高いことを示唆した。
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