雑種成犬の胸腰椎部を椎弓切除し、第9胸椎及び第5腰椎部に位置するように硬膜外電極を挿入して脊髄誘発電位(以下SEP)を記録した。あらかじめ左上腕動脈及び左大腿動脈に血圧測定用カテーテルを挿入し、上下肢で血圧をモニターする。右大腿動脈より挿入したフォガティーカテーテルの先端を胸部大動脈中枢側に位置する様固定してバルーンを大動脈内でふくらませる事により、胸部大動脈以下を阻血状態にし、SEPを経時的に観察する。コントロールとして下肢血圧を40mmHgまで下げて脊髄を阻血状態にし、SEPの電圧が70%に低下するまでの時間を測定する。次に全循環血液量の30%を人工血液(Perfluorochemicals:以下PFC)と置換して同様に阻血状態を作った。この実験を18回行い、結果として、1.コントロールでは約10分でSEPの電位が低下し始め、15分〜20分で70%にまで減弱した。2.PFC置換により脊髄保護効果を認めたのは9例50%で、これらは30分以上阻血状態を続けてもSEPの低下は70%に至らない事を得た。次に硬膜外腔で刺激・記録電極間にフォガティーカテーテルを挿入し、バルーンをふくらませてSEPが70%まで減弱する圧迫量を測定する実験を行い、コントロールとPFC30%置換時とを比較した。これらの実験結果をまとめると、結論的には、SEPは完全阻血後も5分間は低下しない。2.軽度圧迫によってもSEPの変化は直ちに起ることより、急性圧迫時の変化は機械的圧迫による影響が強く表われ、圧迫によって起る局所的な阻血の影響ではないことがうかがえた。3.PFCの置換によって、阻血状態の脊髄をある程度は保護できるが、現在の所、臨床的に応用できるほどの効果は得られなかった。4.圧迫実験では、圧迫の程度を正確に検知する事が困難であるので、PFCの軽度圧迫脊髄に対する保護効果を明らかにする事はできなかった。
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