麻酔薬、麻酔補助薬が骨格筋の興奮-収縮連関にいかに関与するかを、神経・筋接合部の前シナプス、後シナプスに分けて検討を行った。後シナプスの定量法としては動物実験ではクロラロース麻酔下のウナギ(犬)の神経・筋標本を用い、圧トランスヂューサーにて筋の単収縮の張力を測定した。前シナプスの指標としてはBowmanら(1984)による2Hz連続4回刺激に対するfade現象をとった。この方法は臨床的にも深指屈筋-正中神経にも応用してデーターを得た。動物実験ではdibutyryl CyclicAMPがd-ツボクラリンの作用に拮抗する成積が得られたが、これは前シナプスからのアセチルコリンの遊離の増大によるものと思われた。またCa拮抗薬であるジルチアゼムは非脱分極性筋弛緩薬の効果を増強させたが、これは後シナプスまたは筋自身に対する抑制作用によるものと考えられた。臨床側については、吸入麻酔薬、静脈内麻酔薬について検討を行った結果、前シナプス抑制と考えられる連続刺激に対してはエーテル>メトキシフルレン>ハロセンの順で抑制が強かった。静脈内麻酔薬は単収縮、連続刺激ともほととんど影響を与えなかった。非脱分極性筋弛緩薬の前シナプスに対する作用の強さの順としては、アルクロニウム>d-ツボクラリン>ベクロニウム≒パンクロニウムの順であった。パンクロニウムとベクロニウムとで高度ブロックと中等度ブロックとを比較すると、中等度ブロックでfade現象が強く、したがって非脱分極性筋弛緩薬によるブロックが徐々に起こる時には、前シナプスのブロックがより前面に出ることが示唆された。また、非脱分極性筋弛緩薬では前シナプスのブロックは後シナプスに対するよりも結合速度が遅いものと思われた。
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