研究概要 |
尿路結石症の最も重要な危険因子である蓚酸の膜輸送機構を解明するためラット腎刷子縁膜小胞(BBMV)を用いて蓚酸の取り込み実験を施行した。BBMVはラット腎皮質よりMgC12沈降法を用いて分離精製し、酵素学的に検証し、BBMVのviabilityはNa依存性のD-glucoseの取り込みを測定して検討した。腸管上皮のBBMVに関しては、本研究開始後Knickelbein,R.J.(J.C.I.77:170-175,1986)らにより報告されたので、腎BBMVに関して検討した。その結果、次の結論を得た。 (1)BBMVへの蓚酸集積は、小胞外蓚酸濃度により飽和されない。従って、尿細管腔より細胞内への蓚酸再吸収は受動的拡散による。 (2)Na,K勾配(内く外)は蓚酸の取り込みを抑制し、C1勾配は取り込みを促進した。 (3)温度の低下(5℃)は小胞への初期集積率を低下させたが、最大取り込み値に変化を与えなかった。 (4)小胞外5mMパラアミノ馬尿酸(PAH)は蓚酸の取り込みを抑制した。 (5)小胞内より外へのeffluxが観察された。BBMVのhypotonic lysisにより小胞内腔(osmotically sensitive space)に存在する蓚酸が小胞外へ輸送されることを確認した。 (6)effluxは、温度依存性で5℃および5mMPAHにより抑制されたが、100μMPAHにては影響を受けなかった。 (7)小胞内アルカリpHは取り込みを抑制したが、小胞外アルカリpHは、BBMVへの取り込みに影響を与えなかった。 (8)小胞外アルカリpHはeffluxに影響を与えなかった。Basolateral membraneの分離精製は現有設備では困難で、酵素学的検証に耐えなかった。以上BBMVを用いた実験より蓚酸の尿細管腔からの再吸収は受動的拡散、管腔への分泌は能動輸送であることが示唆された。
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