研究概要 |
ヒト陰茎では陰茎深動脈より分岐した螺行動脈が陰茎海綿体洞に開口する直前に平滑筋よりなる弁構造があり、この弁の開閉により勃起がコントロールされており、この弁の平滑筋を弛緩させ、血管を拡張させるよな各種vasoactive drugの陰茎海綿体内注入により勃起させることが可能である。Vasoactive drugのうち入手が容易で、しかも安価で、安全性も確認されているという点で塩酸パパベリンが最も適当であると考えられるが、本剤の陰茎に対する治療薬としての基礎的な検討はほとんどなされていない。そこでわれわれは本剤を陰茎海綿体内に注入した際の陰茎の血流動態を【^(133)Xe】を用いて検討すると同時に、パパベリンが陰茎より流出していく状態を末梢血中のパパベリ濃度を計測することにより観察し、勃起の程度との関連を検討してみた。その結果パパベリンによる勃起は生理的勃起と血流動態は基本的には変らないが、生理的勃起に比して【^(133)Xe】の陰茎からの流出がゆるやかであったことから、流出系が多少生理的勃起と異なることが考えられた。一方、陰茎内パパベリンの末梢血中への流出は不完全勃起群に比して完全勃起群の方が少ない傾向がみられた。また投与量と勃起の程度との関係をみるとパパベリン40mg投与群より80mg投与群の方が有意差をもって勃起力が強いことが判った。次にパパベリンの臨床効果であるがわれわれは177例のインポテンス患者に224回にわたって本剤の陰茎海綿体内注入を行ない、その61.3%に完全勃起,19.4%に不完全勃起,19.3%はほとんど勃起がみられなかった。一方、副作用として1例に血圧の下降を認めたが昇圧剤の投与で血圧はすみやかに正常に復した。また4例に持続勃起症を認めたがいずれも血管収縮剤である酒石酸水素メタラミノールの海綿体内注入により勃起は消退した。このように万一持続勃起症が発生しても治療が可能であり、これらvasoactive drugの臨床応用がより安全になった。
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