研究概要 |
患者病歴より、咽喉頭異常感を表現する短文60文を集めて整理し、各々の文についてその表わす異常感の程度を、50名の評価者が10段階評定尺度法によって評価した。各短文ごとに評価値の平均値ならびに標準偏差値を計算した。これらの文から、異常感の程度を表わす指標として適当な値をもつものに文を選び、平均値(スコア値)の大きさの順に配列して異常感スコアとした。次いで、耳鼻咽喉科外来を受診した咽喉頭異常感症症例75例に、上記のスコアの短文のうちから、各自の自覚症状に最も近い短文2文以内を選択させ、それらのスコア値を平均してその患者の異常感値とした。 一方,徹底的な臨床的精査を行い、異常感の原因と思われる基礎疾患を追求した。慢性副鼻腔炎,慢性扁桃炎,慢性甲状腺炎等、多数の疾患が発見された。悪性腫瘍も3例含まれていた。これらの基礎疾患別に異常感値を検討したところ、各疾患ごとに異常感値の平均値には差があり、悪性腫瘍や喉頭ポリープ等の組織増殖性の疾患では異常感値が高く、慢性副鼻腔炎や慢性扁桃炎などの炎症性疾患では異常感値が比較的低いことが分った。 さらに、上記の異常感値を目的変数とし、各種基礎疾患の有無を説明変数として、数量化理論【I】類による解析を行った。その結果、やはり悪性腫瘍や甲状腺腫瘍の存在が異常感値を高めるのに貢献していることが確かめられた。また、マイナートランキライザーと消炎酵素剤から成るスクリーニング処方を上記の患者群に投与し、その前後における異常感値の変化を検討した。 慢性扁桃炎,慢性副鼻腔炎など大部分の疾患群では、スクリーニング処方の投与によって異常感値が大幅に低下するのが観察された。しかし悪性腫瘍群では、スクリーニング処方の投与後も、異常感値が全く変化しないことが確認された。本研究によって作成された異常感スコアは、咽喉頭異常感症の診療において有用であると考えられた。
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