研究概要 |
悪性高血圧や妊娠中毒症において脈絡膜萎縮や漿液性網膜剥離をおこす高血圧性脈絡膜症の病態について検討した。まず、本症の血管閉塞の発生機序について検討した(昭和60年度)。次に、高血圧性脈絡膜症の発生、進展に対して血小板凝集抑制剤の効果を検討した(昭和61年度)。 実験方法:成熟有色家兎にメタアラミノールを静注して急性高血圧を作成した。急性高血圧における脈絡膜の循環動態について螢光眼底造影を用いて、また形態学的変化について電顕を用いて検討した。さらに、本症における血管内皮障害に対して血小板凝集抑制剤アロプリノールおよびアスピリンDLを投入し、その効果を調べた。 結果:螢光眼底造影では脈絡膜小動脈の収縮による毛細管床の充盈遅延とそれに続く螢光漏出がみられた。病変の好発部位は後極部、とくに髄翼の下方であった。形態学的検索では脈絡膜細動脈の著しい収縮と管腔の消失がみられ、末梢の虚血が示唆された。脈絡膜毛細血管では内皮細胞が剥離脱落し、血小板の粘着凝集、血栓形成がみられた。トレーサーは脈絡膜血管から壊死した網膜色素上皮細胞内を経て、網膜下へ拡散した。血小板凝集抑制剤による実験では、薬剤投与群の末梢血の血小板減少率は非投与群に比べて低かった。しかしながら、眼底における病変および形態学的変化などの発生頻度や程度については両者間にあきらかな差はみいだせなかった。 結論:急性高血圧による脈絡膜症の発生機序は脈絡膜細動脈の収縮による末梢の虚血が原因であり、毛細血管内皮細胞の障害,血小板の活性化,血栓形成,網膜色素上皮関門の破綻などの一連の過程により成立することが判明した。また、血小板凝集抑制剤は本症の発症をある程度抑制しうるが、阻止することは困難であった。すなわち、一旦内皮障害が発生すれば血小板の活性化は進行性であった。
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