研究概要 |
唾液にはリン酸イオンのほかに炭酸イオンが含まれており、とくに刺激唾液では炭酸イオンの濃度が著明に高まり、リン酸イオンの濃度を上まわることが知られている。それにもかかわらず、唾液腺内結石や歯石の主成分はリン酸カルシウムであり、炭酸カルシウムが占める割合はきわめて少ない。 以上の事実に着眼して、前年度の研究では唾液の炭酸カルシウム沈澱形成阻害能をしらべ、唾液に含まれる一連の高プロリン含有塩基性タンパク質のほかに、分子量1,000〜2,000および3,000附近の低分子量ペプチドにも阻害活性が認められた。本年度は、阻害活性を有する唾液ペプチドの精製をめざして努力したが、目的を達成できなかった。その理由として、一つには大量の唾液試料を必要とすることもあるが、なによりも、低分子量唾液ペプチドの系統的分画と精製に関する有用な実験条件を定めるに至っていないことが、本研究の障壁になっている。 本年度は上記の研究のほかに、歯苔の有機酸生成に影響を及ぼす唾液ペプチドの検索を行ない、次の結果を得た。(1)グルコース添加BHI培地に新鮮な歯苔懸浤液を加え、37℃にて好気条件下および嫌気条件下にインキュベートし、培地中に生成される乳酸と酢酸をシマズゲルSCR-101Hカラムを用いたHPLCで分析したところ、乳酸生成量は好気および嫌気の両条件下でほとんど差がなく、好気条件下で僅かに多い程度であった。しかし、酢酸生成量は嫌気条件下で多く、インキュベート8時間で好気条件下の1.3倍をしめした。(2)耳下腺唾液をゲル濾過法で粗分画した低分子量唾液ペプチド画分(10画分)について乳酸生成に及ぼす影響をしらべたところ、好気条件下の乳酸生成に対しては促進的に作用するが、嫌気条件下での乳酸生成を抑制する画分が見出された。(3)嫌気条件下における酢酸生成を抑制する唾液ペプチドの存在が示唆された。
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