研究概要 |
本年度はATP(アデノシン3リン酸)による人為的低血圧が冠血管系および心筋そのものに及ぼす影響を中心に研究した。イヌを対象とし、GOF麻酔(【N_2】:【O_2】=1:1 F:0.7〜1.0%)下に気管内挿管し、調節呼吸とし、Pa【CO_2】を40mmHg前後に保った。右股動脈にカテーテルを挿入し、観血的動脈圧を連続的に測定記録した。右股静脈からSwan-Ganzカテーテルを挿入し、熱希釈法により心拍出量を測定した。ATPの投与路は左股静脈とした。次いで開胸を行い心臓を露出させ冠状動脈左前下行枝の圧心室に相当する部位に組織血流計の測定端子と組織酸素分圧測定のための酸素電極とを心筋外層より約2mmの深さに縫いつけた。組織酸素分圧はポーラログラフィー利用の酸素電極法により絶対値で測定し、組織血流量は制御差温式で相対値を測定し水素クリアラン法で較正し絶対値を求めた。ATP投与前の値を対照群(平均動脈圧;85.5±15.4S.EmmHg)として、ATP投与により超低血圧とした群(平均動脈圧;38.9±3.1S.EmmHg)とを比較した。 心拍出量は低血圧群でも減少しなかった。左心室にあたる心筋部位外層での組織血流量は対照群に比べ、低血圧群では約38%も増加した。同部位での組織酸素分圧は低血圧群でも対照群とほぼ同じ値を示した(対照群Pt【O_2】=27.5±2.2mmHg,低血圧群Pt【O_2】=26.5±2.2mmHg)。以上のことより、ATPによる低血圧では、平均動脈圧を【40^(mmHg)】以下に下げても、心筋外層の冠状動脈により血液を灌流される部位では、組織血流量や組織酸素分圧に悪影響を及ぼさないという結論を得た。 また前年度の結果でATPは冠状静脈血流量も減少させないことから、現在最も理想的な最良の低血圧薬と考える。
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