研究概要 |
昭和60,61年の2ケ年にわたり、本研究のテーマにそって実施された研究成果は、以下の如く要約される。 1)培養人工粘膜の作製と移植法の確立 培養人工粘膜は、線維芽細胞をコラーゲンゲル内で立体培養した粘膜固有層モデル(SMM)とその表層に重層培養した粘膜上皮細胞によって構成されている。SMMの作製には、線維芽細胞6×【10^5】1dish,5.4%のコラーゲンを要し、37°C,5%【CO_2】,15%牛胎児血清培地での最低10日間の培養が必要であった。 培養人工粘膜の移植は、細胞を提供した家兎の背部に作製した皮膚欠損部に行った。培養人工粘膜は機械的強度が脆弱であったため、移植片の固定には生体接着剤を用いた。培養人工粘膜の移植に関する最も重要なポイントは、移植片の無菌的操作と保湿であった。培養人工粘膜はin vitroで作製された極めて未熟な人工組織であることから、移植にともなう感染、乾燥は移植片の生着に対する大きな障害因子となった。これらの問題に対して、われわれは培養人工粘膜の移植時に抗生剤含有ワセリンでその表層を被覆することによって、移植片の感染と乾燥を防止した。その結果、培養人工粘膜は移植後約1週間で母床より侵入した血管によって血行再開し、生着した。免疫学的拒絶反応は見られなかっった。 2)培養人工粘膜の微細構造について 培養人工粘膜が正常粘膜組織と同様の構造を獲得しているかという問題に関して、組織構造の重要な要素のひとつである基底膜を、透過型電子顕微鏡を用いて観察した。その結果SMM上での上皮培養開始後4週で上皮層直下にhalf desmosomeが形成されていることを認めた。しかし、明板,暗板などの形成は確認できず、完全な基底膜の完成にはさらに長期の培養が必要であると思われた。
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