小児では唾液分泌が活発であるのに対して老人になると唾液分泌量が少なくなるという唾液分泌機能にみられる加齢的な現象を、広く生態学的に追求することを試み、以下の結論を得た。1.5〜84歳までの正常者(562名)を対象として、咋年に報告した綿球吸着法により広く唾液分泌量を測定したところ、同年齢でも個人差がかなり大きいけれども、年齢と唾液分泌量との間に有意な相関関係が認められ(P<0.001)、加齢とともに唾液分泌量の減少することが明らかとなった。各年代別に唾液分泌量を比較しても、20歳代までは個人差が大きくて年代別有意差はみられなかったが、40歳代からの唾液分泌量の減少は有意であり、とくに60歳代以上では20歳代の平均分泌量の13%にまで減少し、加齢と唾液分泌量の関係は明らかとなった。2.正常者144名(12〜75歳)を対象として血漿コリンエステラーゼ(ChE)活性を測定したところ、男性では加齢とともに有意に低下することが認められたが、女性では加齢との関係で有意差はみられなかった。また血漿ChE活性と唾液分泌量との間に相関関係が認められなかったことにより、唾液分泌量の加齢的な減少は血漿ChE活性の直接的な影響によるものではないと考えられた。3.唾液粘稠度と加齢や唾液分泌量との関係を調べるために、まず1被検者の混合唾液の粘度を市販のオストワルド粘度計で測定したところ1.5〜3.3CP(センチポエズ)の範囲で、唾液分泌量が少ない時ほど粘度が高くなる傾向がみられた。しかし市販粘度計では唾液試料を5ml必要とすることから数多く調査できなかったので、現在試料量を1ml以下に少量化した改良型粘度計を作製し、広く疫学的に調査することを進めている。以上、加齢と唾液分泌機能との関係を唾液分泌量や唾液粘稠度、血漿ChE活性などの変化から調べてきたが、次年度はさらに実験動物のラットも用いてこれらの関係を深めていきたいと考えている。
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