研究概要 |
最近著者らは、【BF_3】及びDCCで活性化させたhypervalent有機ヨウ素化合物のヨードシルベンゼンを活用することにより、環状γ-スタニルアルコール類が酸化的1,4-開裂反応を引き起こして、重要合成中間体不飽和カルボニル化合物が生成することを見出している。今回本反応の立体化学を検討し、反応が立体特異的に進行すること、すなわち、2位アルキル基と3位スタニル基の相対配置が完全に保持されること、従って反応は協奏的に進行することを明らかにした。この特性を活用することにより、蚊Culex pipiens fatigansの産卵誘引フェロモンの主成分であるエリスロ-6-アセトキシ-5-ヘキサデカノリドの立体選択的な合成にも成功した。更に、本法を橋頭位に水酸基を有する双環性γ-スタニルアルコールの環拡大反応に応用し、通常合成困難とされる中員環不飽和ラクトン類の立体選択的な合成法の開発にも成功した。本反応の反応機構についても詳細に検討し、環状γ-スタニルアルコール類の環開裂反応は、水酸基が【BF_3】活性型ヨードシルベンゼンのヨウ素原子を求核的に攻撃することから開始される反応であることを明らかにした。また、スズ原子と酸素原子との間の分子内hypervalent相互作用により、シス型二置換シクロヘキサン類を通常は非常に不安定な1,3-ジアキシャルコンホーマーに固定するという全く新しい方法論の開発を行なった。分子内hy-pervalent相互作用によるジアキシャルコンホーマーの固定という方法論を基盤として、四酸化オスミウムによるオレフィン類のジヒドロキシル化反応の立体制御にも成功した。今後、本方法論を活用する不斉合成反応等への展開が大いに期待される。
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