研究概要 |
複雑なカルシウム-アミノ酸錯体とその関連錯体の金属-配位子間結合について、他の方法では得難い基礎的知見を振動スペクトルから得ることを目的とし、本研究を行ない、昭和61年度には、次に示す結果を得た。 1)しばしば、カルシウム錯体と対比される亜鉛錯体のうち、高分子状の亜鉛ヒスチヂン錯体を取り挙げ、振動スペクトルに及ぼす【^(64)Zn】-【^(68)Zn】置換による効果に基ずき、振動スペクトルの解析と基準振動の計算を行ない、亜鉛錯体がカルシウム錯体と良く対応していることを明らかにした。 2)昨年度検討したグリシン及びアミノ酪酸カルシウム錯体に引き続き、8配位であることが知られているフェニールアラニンカルシウム錯体について重水素及び【^(40)Ca】-【^(44)Ca】置換による効果を用いて、その振動スペクトルを解析し、227【cm^(-1)】にカルシウム-配位子伸縮振動が存在することを明らかにした。これらの結果から、8配位カルシウム錯体では、カルシウム-配位子伸縮振動は、250【cm^(-1)】前後に存在すると結論した。また、6配位であるグリシルグリシンカルシウム錯体についても同様に検討し、カルシウム-配位子伸縮振動は、345,268及び239【cm^(-1)】に存在することを明らかにし、この結果と昨年度の結果とから、6配位カルシウム錯体では、カルシウム-配位子伸縮振動は主に300【cm^(-1)】前後に存在すると結論した。 3)構造未知のハイドロオキシプロリンカルシウム錯体について、【^(40)Ca】-【^(44)Ca】置換を行ない、カルシウム-配位子伸縮振動は、265【cm^(-1)】に存在することを明らかにした。上記2)の結果を用いれば、この錯体は、6配位であると推定できる。一方、実測を比較的良く再現する基準振動の計算によれば、カルシウム-配位子の結合力は、伸縮振動数や結合距離から予想されるよりも、6配位錯体の方が、8配位錯体より相当強く、2倍以上であることが分かった。
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