研究概要 |
アミノ酸及び関連化合物を含むCa錯体は, その生理活性等に関して興味が持たれているが, 紫外・可視スペクトルを有効に利用できないうえ, 振動スペクトルも経験的な解析方法に任意性が強いために, そのCa-配位子の結合に関する研究は少ない. そこで, 本研究では, Ca-配位子結合に関する基礎的な知見を得る目的で, Ca-アミノ酸錯体及びその関連錯体の振動スペクトルを^<40>Ca-^<44>Ca置換による同位体効果等を用いて解析することにした. まず, 複雑な構造のCa錯体に同位体効果を用いる方法の有効性を検討するため, Caと同様にd電子の遷移を紫外・可視部に持たない亜鉛を取り挙げ, L-ヒスチジン(His)錯体を亜鉛錯体を中心として検討した結果, 金属-配位子伸縮振動の解析に同位体効果が有効であることが分かった. 更に, 錯体中のHisのconformationの差異の振動スペクトルに及ぼす影響をも明らかにした. 次いで, 6配位のCa・GG, Ca・Glu, Ca・Sar及び8配位のCa・Gly, Ca・Aba, Ca・Pheについて, 同位体効果を用いて検討した. その結果, ^<40>Ca-^<44>Ca置換によるシフトは, 340-220cm^<-1>の間のバンドに観測され, 従来200cm^<-1>以下と考えられていたCa-配位子伸縮振動が相当高波数に存在することを明らかにした. また, これらのCa-配位子伸縮振動数は, 6配位錯体では300cm^<-1>前後, 8配位錯体では250cm^<-1>前後と6配位錯体の方が高い. 更に, 基準振動の計算結果によればCa-配位子の結合力は, 伸縮振動数や結合距離から予想される以上に6配位錯体の方が強いことが分かった. また, L-ハイドロキシプロリンを含む構造未知の錯体について検討した結果, 6配位錯体に近いことが分かった. 更に, 核酸塩基を含む7配位Ca錯体は6配位に近いことも明らかにした. 本研究では, Ca-配位子の結合力に関する知見を得ることができた. これらの結果は, 酵素中の金属-蛋白の相互作用等の研究の基礎的なデータとして有益なものであると考えられる.
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