細胞が産生する分化誘導因子は細胞毒性が低い為と生体内でも有効なことが予想される為に、白血病の治療薬として検討されている薬物のひとつである。我々は、マウス骨髄性白血病細胞(M1細胞)から自然に分化した細胞が、低分子量の分化誘導物質を産生していることを発見した。このように細胞自身により産生される分化誘導因子としては、高分子量のタンパク質以外は報告されていない。低分子量の分化誘導因子は、高分子量のものに較べて抗原抗体反応に起因する障害を起こしにくいと考えられるので、この因子を精製し、その構造を明らかにし、白血病の治療薬としての検討を加えることは意義があると考えられる。本研究では、まず分化誘導因子の精製に使われている従来の方法でこの因子を部分精製し、この化合物の分子量が約1300であることを証明した。このような低分子量の分化誘導因子の精製法は知られていなかったので、この分化誘導因子の精製法を種々検討して確立した。すなわち、細胞の条件培地をSephadex G-15によるゲルろ過、陰イオン交換クロマトグラフィー、シリカゲルによる薄層クロマトグラフィー、ODS-120Tカラムによる高速液体クロマトグラフィー、TSK-3000SWカラムによるゲルろ過により均質なペプチドを精製した。このペプチドはアミノ酸12個よりなり、N末端はブロックされていた。精製したペプチドは、M1細胞をマクロファージ様細胞に分化誘導した。ヒトの白血病細胞HL-60に対して、このペプチドは5x【10^(-7)】g/mlの濃度で加えると、その増殖を著しく阻害した。さらに、マクロァージの癌化したp388D1細胞をリポポリサッカライドにより活性化したときに、ペプチド性因子が産生されていないかを調べた結果、タンパク性の分化誘導因子は大量に産生されていたが、ペプチド性のものは微量な為に現在のところ精製に成功していない。
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