本研究では、酸化的ストレスをうけやすい赤血球において、1.膜脂質過酸化反応による膜傷害、とくに膜タンパクの傷害に関与する脂質過酸化物中の反応性分子の追求、2.赤血球膜脂質過酸化反応に影響を与える因子の解析、3.脂質過酸化物により修飾(傷害)をうけた膜タンパクの検出、同定を行い、以下の知見を得た。 1.タンパク傷害に関与する過酸化脂質二次分解物中の分子種を蛍光性タンパクの生成を指標として調べたところ、(1).まず、タンパクのモデルとしてポリリジンを用いた実験において、従来主要な反応性分子と考えられていたマロンアルデヒドの関与の可能性は小さく、他の1価アルデヒド類の関与が示唆された。(2).ヒト赤血球膜においても、マロンアルデヒド以外のアルデヒドの関与が示唆された。また、いずれの実験系においても、1価アルデヒド類によりタンパクの架橋がおこることが見出された。 2.(1).赤血球膜における脂質過酸化反応をヘモグロビンが促進し、その触媒効果は高濃度において低下すること、また、その触媒作用は、ヘム自身ではなく、ヘムから遊離する何らかの鉄複合体によることが明かとなった。(2).生細胞の膜機能を修飾する作用のある過ヨウ素酸が赤血球膜の脂質過酸化を誘導することを見出し、この反応にもヘモグロビンが触媒となること、膜タンパクのシアル酸残基がこの脂質過酸化に関与していることを明かにした。 3.脂質過酸化をおこした赤血球膜のタンパクはNa【B^3】【H_4】で選択的に還元標識されることを示した。また、この標識法を利用して、過酸化脂質で修飾された赤血球膜タンパクを検出、同定したところ、架橋されていないタンパク、糖タンパク分子にも過酸化脂質が反応していることが判った。
|