Ca反転とは、栄養液中の【Ca^(++)】をEGTAで除去した系において、平滑筋(ラット:子宮)はオキシトシンなどに対し持続した収縮を示すが、これにCa拮抗薬存在下で【10^(-4)】〜3×【10^(-4)】Mの【Ca^(++)】を添加すると逆に弛緩を示す事を指す。また、この反転は、【10^(-8)】〜【10^(-7)】Mの極微量の【Ca^(++)】をこの収縮に対し添加する事でも発生する。即ち、【Ca^(++)】は極微量で抑制的作用を持つわけである。この作用が細胞内で発現しているという傍証を既に得ていたが、今回細胞内のCaキレート薬や、Ca拮抗薬、Caチャネル活性化薬などを用いて細胞内の【Ca^(++)】濃度を変える事で、確実に【Ca^(++)】が細胞内でこの抑制作用を示す事を証明した。抑制作用を示す【Ca^(++)】の濃度が丁度、静止時の細胞内【Ca^(++)】濃度と一致する事から、本現象が生理的意義を持つ事が期待される。Ca反転が著明に観察される【Ca^(++)】除去液中での収縮は、カルモジュリン阻害薬により抑制された。従ってこの収縮は【Ca^(++)】が大きく絡んでいると考えられ、促進的に作用している【Ca^(++)】自身がより微量では逆に抑制をかけるという興味ある現象と考えられる。さて、この現象はCa拮抗薬により引き起されるので、その特異性を検討したところ、多かれ少くなかれCa拮抗作用を持つ薬物はCa反転を引き起すが、その【ED_(50)】を1×【10^(-4)】M【Ca^(++)】と3×【10^(-4)】M【Ca^(++)】に対して求めると、その比がCa拮抗作用としての特異性を良く表わす事を発見した(昭和60年度)。更に、電位依存性Caチャネルがよく開くように高【K^+】液中でこの反応を調べてみると電位依存性Caチャネル選択性の高いCa拮抗薬は、Ca反転を引き起す濃度が著明に低下し、また、【ED_(50)】の比も著しく大きくなる事が判明した。従って、本法により、簡便にCa拮抗薬の検出が可能となり、一方それ以外の平滑筋弛緩作用も【Ca^(++)】を加える前の単なる弛緩として同時に発見でき、更に、Ca拮抗薬としてのサブクラスを予知する事のできる新しいスクリーニング法が可能である事が結論づけられた(昭和61年度)。
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