胎児期における異常高温環境が生後の発育と行動発達に及ぼす影響を調べるため、妊娠後半期のマウスに高温を負荷した後、自然分娩せしめ、その仔の生後発育、行動発達、ならびに学習能力を調べた。 動物はICR系マウスを用い、妊娠12-15日に1日1回または2回、42℃または43℃の水槽に10分間ずつ下半身をつけて高温を負荷した。対照群のマウスは、1日2回各10分間ずつ、38℃の水槽につけた。各群のマウスを自然分娩せしめ、その出生仔について次記の生後観察を行った。離乳は生後3週に行った。 a.体重(毎週) b.生存率 c.形態及び機能の分化(眼瞼開裂、耳介開展、膣の開口、精巣の下降、前進歩行、正向反射、断崖回避反応、negative geotaxisなど) d.open field activity(5週齢) e.複合T字型水迷路試験(7週齢) f.Shuttle boxによるavoidanceテスト(10週齢) g.脳重量(11週齢) 以上の実験結果から、高温負荷群のマウスは、生後の身体と脳の発育が温度負荷の強さに応じて抑制され、生後11週までに対照群にcatch upする傾向を示さなかった。また、高温負荷群のマウスは、生後の情動がhypactiveとなり、迷路試験や条件回避試験で学習能力の劣る傾向が認められた。 すなわち、マウスにおいて、胎生期後半の異常高温環境は、その仔の生後の発育と機能発達を障害することが示されたが、これは細胞の増殖が高温によって阻害され、特に感受性の高い神経組織の分化が障害をうけたものと考えられる。我々は、マウスにおける高温の催奇形作用を昨年度までに明らかにしたが、これらの結果から、胎生期の異常高温環境は、時期特異的に、各種奇形や胎児死亡、生後の機能発達の障害など広範囲の異常を誘発し得ることが明らかになった。
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