2年間の研究成果で、最も注目すべきは乳酸脱水素酵素(LDH)Mサブユニット欠損症の第三家系が見いだされたことである。この症例を含めて、Mサブユニット欠損症の臨床症状をまとめると、男性と女性で、ハイリスクとなる状況はことなるが、明らかに潜在性のハイリスクの遺伝性変異症であることが確認された。臨床症状を呈することなく、検査データにのみ異常の認められる患者群の中に無症候性遺伝性変異が含まれ、この中にハイリスクの変異症が含まれるというのが本研究の端緒である。また、このような潜在性の無症候性遺伝性変異を日常の検査データより検出または予知することは検査医学の重要な課題の一つである。この研究では、これらの変異の検出の論理の確立を目的とした。 まず、Mサブユニット欠損の臨床症状の特徴をまとめた。男性は2家系4名、いずれも激しい運動後のミオグロビン尿を認め1名は腎不全を伴っていた。女性は、3家系4名で、うち1名は2回の出産を経験したが、いずれも自然分娩は不可能で、帝王切開術によって出産した。その他、共通した四肢伸側の紅疹など皮膚症状も特徴ある所見であった。 検査データからのLDHサブユニット欠損症の保因者群を検出する目的にて、LDHの健常人参照域下限値2SD以下をカットオフ値として患者46人を抽出した。これに対して、患者赤血球のLDHアイソエンザイム分析を実施し、そのサブユニット比(H/M)を算出した。このサブユニット比の健常人下限値2SDを下回る例18例は、全てがHサブユニット欠損症の保因者であった。この検出論理での保因者の検出効率は39.1%であり、保因者の頻度はマススクリーニングによる値の約半数であった。また、この検出論理ではMサブユニット欠損症は、約1/10の検出効率であり、さらに効率をあげる試みがなされている。
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