60年度は、国内所蔵一次文献の調査と複写依頼および国内末蔵一次文献を入手した。研究成果は、(a)実験的側面に関して、ふく射現象の解明に実験的な手法の整備や実験手段の改良が大きく関わり合っていること、(b)理論的側面では、ふく射平衡への熱力学の適用、ふく射のメカニズムの探求、熱力学適用の限界性の認識と分子運動論的抽像、統計的視点、そして包括的理論の要請というふく射論の発展の概観を捉えた。 61年度は前年度に引き続いて、国内外の文献資料を収集し、研究協力者の援助をも得て研究を進めた。そのさい、熱ふく射研究にみられる包括理論への指向、実験技術の現代の萌芽、物理学における諸概念・認識方法の変容といった基礎的視点をおさえ、以下のような知見、成果を得ることができた。 (1)熱ふく射研究全般に関して、理論的側面では、作用量子の次元解析による導出、実験的側面では、実験手段の体系の分類から実験的研究の展開の諸特徴を明らかにした。 (2)個別研究-(a)キリヒホッフの熱ふく射研究の起源と黒体概念を導くに至った方法的特徴を検討し、(b)ティンダルの精巧な実験データの運動論的説明が原子・分子のふるまいを想定した特徴を持っていることを明らかにし、(c)オングストロームの太陽スペクトルの波長分布測定のためにおこなった電気スペクトルの実験の役割から、彼の初期の光学研究を特徴づけ、(d)ヴィーンの変位則・分布則の理論的導出や黒体条件に関する研究が、帝国物理工学研究所における温度・光度標準の研究に対応していること、変位則導出における彼の熱力学的方法の特徴を見た。 なお、当初の計画にはなかった、ふく射研究の前提となる熱学・電磁気学理論の展開、18世紀末から19世紀前半の熱ふく射の前史も検討する必要がある。
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