研究概要 |
重症心身障害児は重度の肢体不自由と重度の精神薄弱とを併せもち, 身体機能は健常者に比べて極めて低く, 常に健康管理と体力向上を心掛けなければならない. 本研究では, 彼らの体力向上の可能性を探るために, 日常生活における身体活動水準を心拍数時系列を手掛りとして検討してきた. そして, 最重度の重症心身障害児は積極的, 能動的な身体活動がなく, 身体活動水準の極めて低いことを確認した. このため, 彼らの心肺機能は低下する危険性があり, 受動的であっても循環機能に刺戟を与えるようなトレーニングが必要であることを痛感した. そこで, 昨年度より変動的トレーニング法として姿勢変換をとりあげ, 姿勢変換(臥位より座位へ)に対する循環機能の反応を詳細に分析した. 被検者は最重度の寝たきりの重症心身障害児20名, 健常者10名であった. 座位時の姿勢は介護者による寄りかかりかギャッジベットによって保持した. 測定項目は心拍数, 血圧, 脈拍の3項目を中心にし, 一部, 酸素摂取量の測定も実施した. 重症児の心拍数は座位時と仰臥位で約10拍の差がみられ, 被検者間のばらつきも大きかった. 健常者は約5拍の上昇であり, 有意な違いであった. 末梢の循環機能を示す指尖脈波は, スペクトル解析の結果からみると, 重症児の場合約10%, 健常者の場合65%まで座位時で減少を示した. 血圧は重症児, 健常者共に積極的な変化を示すに至らなかった. 心拍数の上昇と脈波の減少との相関関係をみると, 重症児は3つの群に分けられた. 1つは脈波の減少に対して非常に心拍数が上昇する群であり, 末梢循環抵抗が極めて高いものと推察された. 2つ目はほぼ健常者と同様な反応を示す群であり, 彼らは以前, 座位, 立位のとれた者が多かった. 3群目は, 脈波の減少に対して心拍数の上昇がほとんどみられないものであり, 循環中枢の不全が考えられた.
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