研究概要 |
本研究は, 脳膸膜炎菌Neisseria meningitidis B群細菌感染予防を終局の目的とし, 低抗原性のN-アセチルノイラミン酸(NeuAc)のα-(2→8)結合ポリマーに対する抗体産生の試みを, N-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)のα-(2→8)結合ポリマーを分子内にもつニジマス卵ポリシアロ糖タンパク質(PSGP)を利用して実行することであった. 本研究によって得られた成果を要約すると以下の通りである. (1)α-(2→8)結合NeuGcポリマーはα-(2→8)結合NeuAcポリマーと同様抗原性は極めて低い. ウサギ, マウス系では十数ヶ月にわたって静脈投与を続けても抗体産生は認められなかった. (2)米国N.I.H.のJ.B.Robbins博士がN.meningitidis生菌をホルマリン処理したものをウマに数年間に亘って静脈投与後ようやく抗血清を得ることに成功し, 世界中でポリシアリル鎖の鋭敏なプローブとして使用されているH.46抗-(ポリシアリル基)抗体(IgM)の抗原特異生を調べた結果, H.46は鎖長>12のα-(2→8)NeuAcポリマーとのみ特異的に反応し, α-(2→8)NeuGcポリマーとは交差反応しないことが明らかとなった. (3)α-(2→8)NeuGcポリマーを含むポリシアロ糖タンパク質を抗原として用いニワトリに免疫することによって, 抗血清を得ることに成功した. この抗血清中に抗NeuGcポリマー抗体が含まれているものとみられ, 現在, その精製と抗原特異性の決定を行っている. この抗血清とNeuGcポリマーをもつポリシアロ糖タンパク質との反応はα-(2→8)NeuAcポリマーであるコロミン酸によって阻害されないことから, H-46抗血清とは対照的なNeuGcポリマーに特異的な抗体を含んでいるものとみられる. この事実は, 今後の動物細胞系の初期発生および腫瘍細胞表面に特異的に発現されることが次第に明らかとされてきつつある細胞生物学の分野に極めて有効なプローブを提供し得るものとみなされる. また, 上記結果から推してNeuGcポリマーはヒトに対して抗原性を呈することが予期されワクチン開発への道を開き得た.
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