マイコプラズマ(M.Capricolum)において、本来停止暗号であるUGAがトリプトファン(Trp)を指定するコドンとして使用されていることを次の様な観察および実験結果から明らかにした。 (1)同菌のリボソームタンパク質遺伝子群のクローニングと構造解析により約20種のタンパク遺伝子を同定したが、その配列中UGAが23回出現する。しかもその多くの場合、その対応する大腸菌タンパク質でTrpに相当する場所に出現する。一方、本来のTrpコドンUGGは低頻度でしか出現しない。 (2)これまで解析した限り、停止暗号としてはUAAとUAGのみが使用され、停止部位にUGAは現われない。 (3)M.capricolumの二種のTrp-tRNA遺伝子をクローニングし構造決定を行ったところ、その一方のアンチコドンはUGAに対応するUCAであり、もう一方がUGGに対応するCCAであった。 二種の遺伝子はひとつのオペロンを形成しており、いずれも発現されている。さらに、マイコプラズマ細胞内ではコドンUGAに対応するtRNA【UCA!Trp】はtRNA【CCA!Trp】の5〜10倍量発現されており、これは転写レベルでの調節によるものであることをin vitro およびin vivo系での解析から証明した。以上の結果はマイコプラズマにおいてTrpコドンとして主としてUGAが使用されており、UGGはわずかしか使用されていないことを示している。マイコプラズマの各種遺伝子の構造解析および他細菌との比較から、この遺伝子暗号の変化はマイコプラズマの進化の過程てDNA上で働いたと考えられる"片よりのある変異圧(biased mutation pressure)"によるGC対からAT対へ方向性のある置換にもとづくものであると推論された。M.Capricolumにみられたこの遺伝暗号の変則的使用が細菌界でどれだけの広がりをもつか、また進化的にいつ変化したかについても研究中である。
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