1.完全合成培地による軟骨細胞培養法の確立:細胞外基質にてコートしたプラスチックシャーレを用いることにより、また、トランスフェリン、線維芽細胞増殖因子(FGF)、イソスリン、高密度リポプロテイン、およびハイドロコーチゾンを添加したDMEM-ハムF-12(9:1)培地を用いることにより、ウサギ軟骨細胞を無血清条件下で培養することに初めて成功した。本系での軟骨細胞の増殖、および分化機能発現は、10%血清存在下の培養系での増殖および分化機能発現よりもむしろ亢進していた。 2.軟骨由来因子(CDF)の精製:ヘパリン-セファロースクロマトグラフィー及び逆相(C-18)HPLCなどを組み合わせることにより、ウシ胎児軟骨より3種のCDFを精製した。本方法では、以前の報告よりも回収率が上昇した。これについては、本年の骨代謝学会、生化学会で報告したい。 3.成長因子の作用機作の解明:本系を用いて軟骨に存在するトランスフォーミング成長因子(TGF)-βの生物学的作用が検討した。その結果、TGF-βが、軟骨の成長と分化機能発現に促進的に作用することを見い出した(骨代謝学会発表予定)。また、成長因子の作用機作を追求するため、チロシンリン酸蛋白質フォスファターゼの阻害剤であるvanadateの影響を検討した。ウサギ軟骨細胞培養系にvanadateを添加すると、低濃度では、分化機能の発現が亢進し、高濃度では悪性形質転換が誘起した。この時vanadateは14種の蛋白質のチロシンリン酸レベルを上昇させた。すなわち、チロシンリン酸化は、軟骨細胞の分化と癌化に関与していると考えられる。 3.結論:我々が開発した無血清培地による軟骨細胞培養系は、成長因子の作用機作を解析するための有力な実験系を提供することが判明した。
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