小林(1983)と中村(1983)は、第四紀の初期に北アメリカ・プレートとユーラシア・プレートの境界が中部北海道から日本海東縁へとジャンプしたという仮説を発表した。この仮説を定量的に検証するために、この新生プレート境界の陸上延長と考えられる中部日本において、活断層のネットスリップ(総変位)速度を求めた。その結果、この地域の代表的な活断層である糸魚川・静岡構造線と伊那谷断層帯は、それぞれ8mm/年あるいはそれ以上の速いネットスリップ速度を有することがわかった。中部日本の他の活断層のネットスリップ速度は必ずしも十分わかっているとは言えないが、上記の結果からみて中部日本全体の収束速度は理論的に予想される両プレートの収束速度(約11mm/年)を上回る可能性が高い。伊那谷断層帯については、新たに開発した地形学的手法によってスリップベクトルの方向が決定できた。この方向(N123±10゜E)は理論的に予想されるプレート相対運動の方向(ほぼ東西)と約30゜くいちがっている。以上の結果から、中部日本中・南部の変形は、単に東北日本(北アメリカプレート)と西南日本(ユーラシア・プレート)の間の東西圧縮のみでなく、むしろ伊豆弧の衝突の影響が強いと解釈できる。しかし、この結果は新生プレート境界が中部日本を通ることを否定するものではない。「新説」を真に検証するためには、今後中部日本北部の活断層についても正確なネットスリップ速度を求める必要がある。
|